バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven) 2021-01-17T02:13:07+09:00 忘れたつもりだった。吹っ切れたつもりだった。そんなアナタに贈る小さな恋のコメディー♪※カテゴリークリックでエピソード毎にご覧になれます。 現在エピソード3連載開始。 JUGEM 『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』第2話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=132 2008-05-21T00:13:13+09:00 2008-05-20T16:40:54Z 2008-05-20T15:13:13Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
2
サザエさん通りから駅前に出るとガードレールに美紀がちょこんと腰かけていた。... バツイチ37 『episode3:わがままな涙とアップルパイ』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
2
サザエさん通りから駅前に出るとガードレールに美紀がちょこんと腰かけていた。
夕方の駅前。
車の流れや人の雑踏の中、一人空を見上げる美紀。
斜光を浴びて首から顎にかけてのラインが美しく浮かび上がる。
女の子って、こういう時何を考えてるのだろう。
何も考えてないと今まで思ってたけど、そうでもないらしい。
こないだ、NHKの『考える』って番組見た。
うちらの業界の超売れっ子でてたからね、箭内さん。
その中で、渋谷の公衆電話の前にぼけっと立ってた女の子が
「自分の将来に必要なものは何なのかな」って
その時考えていた事を話してるのを聞いて以来、俺は人とすれ違う度にこの事を考えてる。
いつもなら嫉妬からくる反発で素直にこういうの見れないんだけど、なぜか素直に見れたんだよね。
素直に見て、彼の凄いところをまざまざと見せ付けられた。
金にならないNHKだから箭内さんもある意味適当に「考える」って広告つくってたけど
最後に箭内さんが言った言葉。
「僕にとって考えることは、人に会うこと」
つきささったね、胸に。
考える 考える 自分のこと 来月のこと 君のこと〜♪
俺はゆっくりとした足取りで美紀に近づくと、その横に腰掛け空を見上げた。
吹き抜ける春のそよ風が美紀の香りを運ぶ。
そんな俺を美紀が振り返り、少し距離を置くように座り直す。
「内田さん、なんなんですか!?その恋人チックな登場はぁ」
「え?」
「ちょっと鳥肌たちましたよぉ、もぅ」
ちょっと、ちょっと。
センチメンタルジャーニーなバツイチ37歳に、いきなりそれはひどすぎますよ。特に今日は‥
「い、いやー、空を見上げてたからさ、なんか話しかけづらくてさー」
「ぇえ?」
「何か考えてるのかなーって」
視線の動き、方向で感情を表現する。
詳細は伊丹十三の父である映画監督、伊丹万作がその著書の演出論で熱く語っています。
だから、夕暮れに空を見上げる人は思い悩んでるものなのです。
君の心に今雨を降らせている雲の上にも,青空が広がっているものさ。
うんうん、僕にはわかるよ。
空を見上げる君の気持ちが‥‥
「空なんて私見てないですよ、私が見てたのはアレですよ」
美紀は不機嫌な口調で言うと投げやりに上を指をさした。
「アレ?」
「アレですよぉ」
「どれー?」
「もぅ、あそこの2階の窓際っ」
俺の視線は美紀の指の導線を追い、一組のカップルを捕らえた。
そこにはよくお似合いの美男美女。年のころは20代半ばくらいかな?
二人で仲睦まじく何かのパンフレットを覗き込んでいる。
結婚か旅行かわからないけど、とても楽しそうだ。
「あぁ、もう最悪ぅ」
「え?お似合いじゃない?あのカップル」
「そういう問題じゃなくて最悪なんですよ」
俺は上を睨みつけている美紀を見た。
「あの男の方―――」
一瞬動きが止まる美紀の唇。生まれる間。
もしかして、あの男の子は彼氏?それとも元彼?
「親友の彼氏なんですけど―――」
「ほー」
「アレ、どう見ても浮気ですよねぇ」
ですねー。そう言われるとそうですね。
でも浮気か本気かは彼しかわからないですが。
もしかしたら妹かもしれないし‥
「どうしよう、内田さん」
「え?」
「知らせた方がいいかな?黙ってた方がいいかな?」
「うーん、難しいなー」
俺と美紀は二人してそのカップルを見上げながら答えの出ない問題を考えたんだ。
「僕にとって考えることは、人に会うこと」
気が付くと、山の手の夕暮れに風とロックが流れていた。
つづく
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]]>『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』第1話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=131 2008-05-18T03:46:30+09:00 2008-05-17T19:27:31Z 2008-05-17T18:46:30Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
1
ニ年前の今日
君の横で僕は判を押した
ニ年前の今日
判を押した僕に君がキ... バツイチ37 『episode3:わがままな涙とアップルパイ』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
1
ニ年前の今日
君の横で僕は判を押した
ニ年前の今日
判を押した僕に君がキスをした
僕にはそのキスの意味がわからなかった
ただ僕の知っている君が笑っていたから 君の知っている僕も笑った
ただそれだけの時間
空っぽの僕がいた
空っぽの俺がいる
--------------------------------------------------------------------------------
天井を見上げてベッドに寝転んだ。
世間はゴールデンウィークとやらで浮かれているが、俺は家の大掃除の真っ最中だ。
小学生の頃はテストの前日になるとなんか無性に掃除したくなって、失くして見つからなかった消しゴムの欠片を見つけたりしたものだが、今回の大掃除は消しゴムどころじゃなく、失くして二度と戻らないモノと見つめあう結果となった。
そう、元嫁の残していった品々。
それが掃除をしている俺の心を徐々に蝕んでいき、いっこうにはかどらない。
柴門ふみの漫画。料理の本。3日で止めた家計簿。彼女が好きだったCD。エプロン。
二人で買いに行った服。きれいにたたまれたままの下着。靴下。ミュール。ブーツ。
はっきりいって、どれをどうしていいのか全くわからない。
捨てるしかないのはわかっているのだが、いざ捨てようとすると躊躇う俺がいる。
俺はまだ完全に吹っ切れてはいないみたいだ。
改めてそう思う。
洋服は孤児院に送る事にした。
昔、まだ彼女がいた頃、二人で着なくなった服を孤児院に送って非常に喜ばれた記憶があったからだ。
縮んだTシャツからスーツまで、孤児院の子たちはすごく喜んでくれたって手紙が来たんだっけ。
止まった時間に染まったそれらの服が、彼ら彼女らの手によってまた動き出すならばそれはそれで素晴らしい。
自己満だろうが俺はそう思った。
何してるかな?
恋しくて目を閉じる。
もうあの頃の二人はぼんやりとして見えない。
ただ切ない想いの残音だけ心に反響する。
二人でよく子供の名前を話してた。
子供ができたらなんて名前にするかって。
すごく幸せな時間だった。
未来を見据えた夢のある時間だった。
「私には憧れがある。それはアップルパイを作ること」
あの時、彼女は嬉しそうにやいばを見せてそう言うと笑った。
なんで?
俺が理由を訊くと彼女はこう答えた。
「家族の誰かが元気をなくしたり嫌なことがあったら、アップルパイを焼く。そして、皆で食べる。絶対元気になるはず」
「うんうん」
「そして、子供たちは大人になって思い出すの。アップルパイは、涙と笑顔の味って」
「いいなあ」
「いいよね。ほんとは作ったことないんだけど」
それを聞いて俺は笑った。
「簡単においしく作れる方法が知りたいな」
彼女も笑った。
閉じた目から涙がこぼれた。
涙の味しかしない液体が口に流れ込む。
時間も想いも二度と元には戻らない。
その時、携帯が鳴った。
滲んだ液晶に美紀の文字。
電話をとると美紀の元気な声が飛び込んできた。
「もしもし」
「もしもし、内田さんひどいじゃないですかぁ」
「え?」
「一昨日メール送ったのにぃ。返信ずっと待ってたんですよ」
「あ、ごめんごめん。企画とか掃除とか色々やっててさ」
俺は泣いてたのがばれないように涙をぬぐうとわざと元気な振りをした。
「掃除、終わりました?」
「まーまーかな。そっちこそ風邪もう治ったの?」
「少しは心配してくれてたんですか?」
「まーそりゃね」
「うそつきぃ」
「うそつきって、ひどいなー。で、何の用?」
俺は笑って言った。
空っぽの心にいつの間にか笑いが満たされていく。
過去の音が消え、今の音が聞こえてくる。
「今ですね、桜新町の駅の階段上がったとこにいるんですけどぉ」
「えっ?」
「内田さんの家わかんないから迎えに来てくださいっ」
「えっ?」
「え?じゃないですよ。早く迎えに来てくださいね、10分で」
そう言うと美紀は電話を切った。
つづく
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]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第11話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=130 2008-05-15T05:16:15+09:00 2008-05-14T20:18:06Z 2008-05-14T20:16:15Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
11
あれはもう10年前だろうか。
俺は全く同じ質問を大塚の空蝉橋近くの人妻サロンで訊か... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
11
あれはもう10年前だろうか。
俺は全く同じ質問を大塚の空蝉橋近くの人妻サロンで訊かれた事があった。
あの頃、まだウブだった俺は人妻嬢に「タバコ」と答え、ダメ出しされたんだ。
「終わった後、タバコ吸うようなセックスじゃダメよ。身体が水分求めるくらい激しくないと」
けだるそうに彼女は紫煙を天井に噴き上げながら残念そうに俺を見ていた。
だから俺はその正解を知っている。
「水!」と即答すればいい。
だが、それで本当にいいのか?
本当の俺を理解してくれるパートナーでなくて本当にいいのか?
「俺は水かな」と小川P。
「俺も」とトシちゃん。
美紀は黙って俺を見ている。
「俺は‥‥」
口ごもる俺。
女の不満な心を描かせたら日本一の柴門ふみの名作、『非婚家族』を読んだことがあるだろうか?
その中で主人公の元嫁、ひかるがこう言ってる。
「女は35過ぎたら、性格よりエッチ優先なんだから」
俺は元嫁が家にたくさん残した柴門ふみの漫画を読みながら、この言葉に泣いた。
そしてなんか切なくなって悲しくなった。
目の前にいるアヤちゃんに元嫁の残像が重なった。
「俺はタバコだなー」
アヤちゃんの目に、あの時の人妻嬢と同じ色が浮かぶ。
出て行った元嫁と同じ色が浮かぶ。
そしてその奥から吉田栄作が姿を現す。
「ノーウォーターでフィニッシュです。本当にありがとうございました。」
いえいえ、こちらこそありがとうございました。
俺がダメ人間だということを今日あらためて気付かせていただきましたよ。
でも、俺は自分を裏切ることはできない。
そう、これからも、ずっと。
俺はタバコを手に取るとトイレに立った。
トイレに入ると、そこにある小さな窓を開けちっぽけな夜空を見上げる。
微かに風が流れ込み便座に座った俺をなぐさめてくれる。
吉牛でも食って帰るかな‥
くすぶる心にタバコが妙にうまかった。
その後どうなったかって?
そんな野暮なこときくなよ、アミーゴ。
『三十路の恋はプラトニック』
それが「バツイチ37」の掟なんだ。
ただ翌日、トシちゃんからのメールでアヤちゃんと小川Pができちゃったという報告を受けた事だけは教えておく。
美紀はどうやら風邪気味だったらしい。
おかゆ作りに来てとかいう訳わかんないメールが来てたから無視しといた。
まーそういう事で美紀の貞操は無事だったから、その点ご心配なく。
じゃ、また会う日まで。アディオス!
【エピソード2:ベリーダンスな二択 完】
勝手にエンディングテーマ曲 The Street Sliders - 風が強い日
↑このバナーをクリックしていただけるとランキングが上がってやる気もアップします。出来ればご協力を。]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第10話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=129 2008-05-14T17:24:35+09:00 2008-05-14T14:45:51Z 2008-05-14T08:24:35Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
10
20分後。
ショーが終わってアヤちゃんが俺たちの席に合流した。
軽く自己紹介を終え... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
10
20分後。
ショーが終わってアヤちゃんが俺たちの席に合流した。
軽く自己紹介を終えるとワインを開け、一気に場のペースが上がる。
アヤちゃんの肉感的な身体がこまわり君のアイシテルのサインを見事にブロックしてくれて、俺もようやく自分を取り戻した。
それにしても見事なおっぱい。
ムンっとむせかえる女の匂い。
あーこの人とone to oneのダンスを踊る運命だったのかと実感する。
(ア・イ・シ・テ・ル)
俺は彼女をやさしく見つめ、まばたきする。
キョトンとした顔で俺を見つめ返すアヤちゃん。まばたきする俺。
(ア・イ・シ・テ・ル)
キミの胸に届くといいな、このオモイ、このキモチ。
もう気分は完全に恋人です、はい。
男なんて3秒あれば恋はできるのです。
「内田さん‥‥」
アヤちゃんが少し身体を寄せてくる。
「なんだい?アヤちゃん」
俺も彼女の肉圧を感じるようそっと身体を傾ける。
二人の間にもはや距離はない。周囲の喧騒も気にならない。
僕の瞳の中にはキミがいて、キミの瞳には僕がいる。
キミのかわいい唇が僕の瞳の中で動き始める。
「ちょっと言いにくいんですけど‥」
僕には何が言いたいかもうわかってるよ。
(ア・イ・シ・テ・ル)
キミのまばたきが僕に教えてくれた。
勇気を持って言ってごらん。
「内田さんの離婚の理由って何なんですか?よければ聞きたいな」
「えっ?」
ソノシツモン、ヨソウガイデス
「うんうん」
「私も聞きたいですぅ」
「俺も俺も」
その場にいる全員が異口同音に俺の気持ちを考えない相槌をうち、回答を促す。
明らかに興味本位の目が俺に集まる。
人の不幸は蜜の味。
人間なんてどこまでいってもそんなもんだ。
俺はその視線の痛みに耐え切れずに口を開いた。
「え、えっとですね‥性の不一致ってヤツですよ」
普通の人ならこれ以上突っ込んで理由を聞いてこない。
みんなは知っているだろうか?
昨今の離婚理由において性の不一致が上位にあがってきている事を。
その理由はきっとここにある。
誰にも触れられたくないからね、心の傷は。
いちいち自分の心に向き合うのは疲れるんだ。
キミ達もいい大人なんだからこれ以上は突っ込まないよね?
しかし、場はまたしても予想外に盛り上がった。
「ウッチーそれ俺初耳だわ」
「それってセックスレスってヤツです?」
「奥さんにTバック強要したんじゃないんですぅ?」
「いやー、まーいいじゃないですか‥」
Tバック強要したって‥‥
少し苛立ちを覚えた俺はポケットから煙草を取り出すと火をつけた。
たゆたう煙が目の前の現実を曖昧にぼかしていく。
それを見てアヤちゃんが再び身を乗り出した。
「また質問なんですけど‥」
一瞬の躊躇が風となって煙を流す。
「セックスが終わった後、真っ先に水を飲みます?タバコを吸います?」
それを聞いた俺は、乾いた喉に煙を思いっきり吸い込んだんだ。
つづく
↑このバナーをクリックしていただけるとランキングが上がってやる気もアップします。出来ればご協力を。]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第9話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=128 2008-05-05T18:04:21+09:00 2008-05-14T14:44:49Z 2008-05-05T09:04:21Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)『
エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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この状況は一体なんなんだ。やべ、現実が直視できなくてまばたきが止まらねー。
俺は今... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven) 『
エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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この状況は一体なんなんだ。やべ、現実が直視できなくてまばたきが止まらねー。
俺は今夜、この新橋の豪華客船タイタニックでアヤちゃんと出逢う運命のはずだった。
one to oneのダンスをベリーするはずだった。
それがなぜか今、こまわり君に似たお局様と見つめあっている。
なぜだ、なぜなんだ!
誰か、誰かこの状況から俺をタスケテ・・・−−−・・・
・・・−−−・・・
まばたきのモールス信号。それはSOS。
俺は無意識下で誰にあてることもなくこの救援信号を発していた。
誰か気付いてくれ。
・・・−−−・・・(SOS)
・・・−−−・・・(SOS)
そんな俺を見つめて、こまわり君がきっちり等間隔で5回まばたきを繰り返す。
その表情はまるで猪木が弱った相手の周りをグルグル回りながらステップ踏むくらいの余裕を見せている。
なぜだ、なぜお前は笑うんだ!?
そして、なぜお前までまばたきをするんだ!?
俺はあまりの謎に思わず吸い込まれていた。
こまわり君のまばたきは尚も続く。
「・ ・ ・ ・ ・」
ハッ!
「・ ・ ・ ・ ・」
まさかソレは!?
「・ ・ ・ ・ ・」
ア・イ・シ・テ・ルのサインかーーーーーーーーーーーーーー!
ちゃんとキミに伝わってるかな?
僕はSOS信号を送っていた訳で、キミにアイシテルのサインを送っていたわけでは決してない訳で‥
キミと一緒に未来予想図を描くつもりはサラサラない訳で‥
恐怖と絶望のあまり完全にスパークした俺はクラクラしながら小川Pに視線を向けた。
すると小川Pは俺を見たまま笑っていた。悪者の目で笑っていた。
その横では美紀がいつの間にか上着を脱いでノースリーブから眩しい腕を晒している。
え?
どういうことですか?小川さん
俺は小川さんのアドバイスに従ってゴールドセイントになったというのに、なんで俺はこまわり君担当なんですか?
その時、俺の脳裏にさっきのトイレのシーンがフラッシュバックした。
俺が駄目押しの一吹きをした時、小川Pは今と同じ悪者の目を一瞬浮かべていた。
そう。一瞬だったが、確かに今の目を。
ハッ!
まさか、小川さん!まさか!!!
「シャー!はかったな、シャー!」
「ククク‥坊やだからさ」
二人の間で火花散る無言の会話。
その会話を打ち消すようにショーの第二幕を知らせる音楽が再び店内に流れ始めた。
つづく
↑このバナーをクリックしていただけるとランキングが上がってやる気もアップします。出来ればご協力を。]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第8話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=127 2008-05-01T19:29:12+09:00 2008-05-14T21:17:44Z 2008-05-01T10:29:12Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
8
その時だ。
俺はどこからか舐めるような視線を感じた。
この違和感、さっきとは違う。... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
8
その時だ。
俺はどこからか舐めるような視線を感じた。
この違和感、さっきとは違う。
誰だ!?誰が俺を見てるんだ!?
美紀か?
俺はとっさに眼球を美紀の太ももに向かって動かす。
美紀は俺に完全に背中を向け無視モードに入っている。
トシちゃんがいなくなったスペースを埋め、もう完全に小川Pと二人の世界ぽい空気。
もしや、アヤちゃんか!?
今度はグランドピアノの向こうにあるバックルームの入り口に目を向ける。
しかし、そこに人影はない。
視線は更に俺に絡みつき俺に囁きかける。
「俺の死刑執行は一味違うぜ」
誰だ!お前は誰だ!俺を見てるのは誰だ!
焦る俺の耳には電気グルーブのあの名曲がこだまする。
(誰だ!別れた女にいつまでも未練を引きづってる奴は誰だ!)
(誰だ!風呂場でおしっこしてる奴は誰だ!)
(誰だ!かさぶた食べたことある奴は誰だ!)
(誰だ!自分の携帯で自分の○ンコを写す奴は誰だ!)
(誰だ!お前は誰だ!)
(誰だ!すね毛でありんこ作ってる奴は誰だ!)
(誰だ!俺は王様だと思ってる奴は誰だ!)
(誰だ!ナイーブなふりして女の母性本能をくすぐろうとしてる奴は誰だ!)
(誰だ!TSUTAYAのアダルトコーナーで30分も悩む奴は誰だ!)
誰だ!誰だ!一体俺は誰なんだー!?
その時また隣の肉付きのいい肩がぶつかった。
俺は不愉快な表情を浮かべ静かにゆっくりと丁寧に首を右に回す。
‥‥‥‥
‥‥‥
‥
おまえかあああああああああああああああああああああああああああ
そう、俺は隣に座っているお局風OLと目が合ったままその場で硬直したんだ。
そして、その目は俺に再びこう語った。
「俺の死刑執行は一味違うぜ」
いやああああああああああああああああああああああああああああああ
つづく
↑このバナーをクリックしていただけるとランキングが上がってやる気もアップします。出来ればご協力を。]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第7話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=126 2008-05-01T17:09:21+09:00 2008-05-01T14:57:45Z 2008-05-01T08:09:21Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
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俺達が店に戻ってほどなく店内が暗転し、情熱的なオリエンタルな曲にのって二人の女性が... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
7
俺達が店に戻ってほどなく店内が暗転し、情熱的なオリエンタルな曲にのって二人の女性が登場した。
一人は白人。もう一人は日本人。
ふたりとも肉体的なふくよかさが魅力的で、エキゾチックなメイクが輝く衣装にとても映えている。
俺は思わずトシちゃんの顔を見た。
トシちゃん、どっちなの?どっちがピーチ姫なの?
しかし俺のそんな視線に気付くはずもなくトシちゃんはダンスを見ている。
美紀が横を向いてる俺に気付き耳元で小声で囁く。
「内田さん、すごくいいですよ。ちゃんと見ないと」
ですよね。そんな下心丸出しじゃクリエイターとして恥ずかしいですものね。
俺は美紀に軽く頷くと視線を彼女達に戻した。
そうして少し醒めた目で踊りを見ていた俺だったが、やがて彼女達の動きに目が釘付けになっていた。
なんなんだ、この波動は。この心に伝わってくるビートは。
非常に女性的な曲線を描く彼女達の肢体が宙に舞うベールに見え隠れする。
腰と肩がそれぞれ別の円運動を描き、崩れそうになるバランスを回転した腹筋が支える。
カスタネットを打ち鳴らす腕が上下に柔らかく、時には激しく妖艶に動き、曲調が激しくなるにつれ、各部位の動きは更にその速度を増し,徐々に踊りはエロスから昇華していく。
そこにあるのは、踊り手の想い、思想。
そしてその背景にある彼女達の人生経験が俺の心に熱く響く。
ハートが震える。
素晴らしい。本当に素晴らしい。
ベリーダンスとはここまで素晴らしいものだったのか。
踊る二人の動きが共鳴するように高まって行く。
店にいる客の全てがそれに魅入っていた。
やがて二人の女性は同時にエクスタシーに達し、その動きを完全に止め、俺達はようやく彼女達の魔法から解かれた。
「いやーすごいね。ちょっと感動した」
俺の言葉にみんなが頷く。
彼女達がバックルームにはけた後でも、まだその余韻が店に残っていた。
「俺もアヤちゃんがプロになってから初めてショー見たんだけど、これはかなりすごいね」
そう言うとトシちゃんは興奮気味にビールを一気に喉に流し込んだ。
「トシちゃんの友達って日本人の方ですかー」
当たり前ですよね。アヤちゃんて名前の白人がいたら逆に会ってみたいですよね。
でもよかったです、日本人の方で。
だって、スーハースーハーオウイエーじゃ感じないじゃないですか。
「そそ。ウッチーもなんか感じるものあったんじゃない?」
「それは表現者としてですか?男としてですか?」
「男としてって‥」
美紀がぼそっと呟き、呆れた目線を送ってくる。
「いやいや、両方、両方。俺はウッチーとアヤちゃんお似合いだと思うんだ、色んな意味でね」
「表現者は表現者を知るって言いますしね」
すかさず小川Pがうまい相槌を打つ。
「そそ。ショーもう一回あるからさ、それ終わったら彼女紹介するから、まぁウッチーも考えておいてよ」
「りょうかいー」
トシちゃんが席をたってトイレに向かう。
俺は空になったコップを美紀の前に持っていくが、美紀は気付かない振りをして小川Pと話し込んでいる。
いいもん、いいもん。僕さみしくなんかないもん。
俺はしょうがなく手酌でビールを注ぐと、壁にかかっているムシャの画にそっと乾杯した。
人生、辛いこといっぱいあるけどさ、こんなイイコトもたまにはあるんだよね。
真面目に生きてれば神様は絶対見ててくれてる。
『三十路の恋はプラトニック』って決めてたけど、アヤちゃんだったらもう守れそうもないよ、神様。
うん、絶対無理。
たぶん3秒で無理。
いいですよね?もう僕の禊は済みましたよね?
そんな俺に美人画の中のビーナスが微笑み、囁く。
「お前はここまで孤独によく耐えてきたよ。もうそろそろ自分を自由にしてあげなさい。」
俺は感謝の言葉を唱え、ビーナスの鎖骨に軽くキスをした。
つづく
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]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第6話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=125 2008-04-29T16:46:44+09:00 2008-05-15T21:45:53Z 2008-04-29T07:46:44Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
6
目的の店は小汚い雑居ビルの4Fにあり、そして狭い店内は予想より混雑していた。
20畳程... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
6
目的の店は小汚い雑居ビルの4Fにあり、そして狭い店内は予想より混雑していた。
20畳程度の広さに既に10人以上の客がいる。
一斉に放たれた視線を感じた俺達は少し気後れしながら角席のL字型のソファーに座った。
トシちゃんが角の上座に座り、両隣を美紀と小川Pが無敵の接待フォーメーションを組む。
俺は美紀の隣の丸イスに陣取ると、メニューを見ながらとりあえずビール的なオーダーをしている3人を横目に店内の観察を始める事にした。
「そこにあるリアリティーを焼き付けろ」
という、かつて受けた教えはもう俺の日常に染み付いているのだ。
店に入った時に感じた違和感。
その正体はなんなのか、真っ先にソレを俺は確かめねばならない。
俺は周囲に察知されないよう愛用のグレーのキャスケットを少し目深にかぶり直すと、顔の向きを固定したまま眼球を静かに横にスライドさせた。
―――今回もCTUの援護は期待できない。フロッグ、気をつけて
了解、クロエ―――
まず店の中央に置かれた場違いなグランドピアノが目につく。
この狭い空間で、より密度の濃い圧迫感を客に与える見事な配置。
そして何より不思議なのがその上にあるキムラヤで2800円で買ってきたようなCDラジカセ。
そして気高い胡蝶蘭の一輪挿し。
壁に目を移すと「一生感動一生青春」という相田みつおの有名な言葉の額縁の横に、繊細な美人画で有名なアルフォンス・ムシャの絵画。、
窓際に配置されている一見高そうな赤いソファーにいる年齢不詳の親父が、俺の横に座る2人組のお局風OLにちょっかいをだし、そこからたまに嬌声が上がる。
かと言ってそのようなザ・新橋系の客ばかりでもなく、白いワンピースを着た感度敏感系OLらしき女性も奥に見える。
異様なミスマッチだ。
そう、絶対調和の取れないものを強引に日常にひきずり込む事によって起こる認知的不協和。
まさにカオスだ。
その場に居る者の不安感を煽るこのカオスな空気感は横の3人にもすぐに波及したらしい。
(こんな場末な感じの所で本当にベリーダンスのショーなんてできるのかな?)
(客層も微妙ですしねぇ)
(大体踊るスペースないんじゃ?)
(ですよねぇ)
そんな3人のヒソヒソ声も耳に入ってくる。
時々隣にいるお局風OLが耳障りな笑い声をあげ、その肉付きのいい肩がぶつかる。
しかし俺はそれらを全て無視して視線を動かし続ける。
クロエ、まだ今回のターゲット、コードネーム:プリンセスピーチを目視できていない―――
―――焦らないで、フロッグ
そうこうする内に俺達のテーブルにビールとつまみが運ばれ、俺達はアルコールの力で知らぬ間にこのカオスな空間に馴染んでいった。
3人の中年男子が若い女の太ももをチラミしながら杯を重ねる。
誰がどう見ても俺達も立派なカオスを構成していた。
俺は2杯目のビールを底の泡まで舐めるように飲み干す。
その時、小川Pが美紀に唐突な質問をした。
「美紀ちゃんさ、来る途中のタクシー少しあつくなかった?」
「ぇえ、確かにちょっとあつかったです」
俺の脳裏にはついさっきまでの光景が浮かぶ。
「やっぱりね」
一人納得すると小川Pはコップに注がれたビールを軽く飲み干し俺を見た。
悪者の目だ。何かを確信した悪者の目。
しかし場の会話は何事もなかったかのように流れた。
トシちゃんの嬉しそうな甲高い話声がその後に続いた。
5分後にショーが始まるとアナウンスが流れる。
俺はショーの前に用を足しておこうとトイレにたつことにした。
「俺も」と小川Pがついてくる。
店の外にある暗証番号式のトイレのロックをはずし二人並んで連れションをしていると、小川Pが俺の方を覗きこみながら話しかけてきた。
「内田さん、やっぱすごいっすね」
「え?」
俺は自分のマリオに視線を移す。
高校時代、「定規をあてるのはどこからなのか」と友と熱く議論を交わし、「勃起時において裏側の根元ギリギリから計測した長さが正式な記録」と定義された中で21センチと測定されたマリオが目に入った。
しかし俺は知っている。
あの頃はそれが自己のアイデンティティーを強烈に支えていたが今ではそれが誤りであると。
男とは固さと回復力でその価値が決まるのだ。
長さや太さなどの客観的数値に実は何の意味もない。
俺の考えを察知したのだろう。小川Pが言葉を続ける。
「いやいや、アレですよ、アレ」
「アレ?」
「さっき渡した『加藤鷹オリジナルフェロモン for Men』ですよ」
再び悪者の目になった小川Pが俺を見ている。
「さっき、美紀ちゃんがタクシーの中でなんかあつくなったって言ってたじゃないですか」
「うんうん」
「あれは効いちゃってますよ、間違いなくっ」
ハッ!
そういえば
「なんかタクシー乗ったら少しアツクなっちゃって」
と言って俺のほうに顔を向けた美紀の美しい耳が少し上気していたような。
目も潤んでいたような。唇も濡れてたような。
そういう事だったのですか?小川さん
そうなんですね!?
「この際だから駄目押しにもう一吹きしときましょうよ」
暖かい眼差しで小川Pが頷く。その目は仲間を見守る慈愛に満ちていた。
「で、ですかねー」
俺は少し罪悪感を覚えながらもポケットから輝く小瓶を取り出した。
加藤鷹の黄金のフェロモンがトイレにあふれ出す。
そして飛散する光の粒を身体中に浴び、俺は88の星座の中で頂点を極めた最強のゴールドセイントに生まれ変わったんだ。
ヒンズー教はこう教える。
自分が変われば相手も変わる。心が変われば態度も変わる。と
そう、正義と悪の定義など、時の流れによってまるで変わってしまうものなのだよ。
俺は心の中でそうつぶやくと、まだ見ぬピーチ姫に合掌した。
つづく
↑このバナーをクリックしていただけるとランキングが上がってやる気もアップします。出来ればご協力を。]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第5話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=123 2008-04-26T11:50:21+09:00 2008-04-26T11:14:47Z 2008-04-26T02:50:21Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
5
俺達は伊藤忠の前のタクシー乗り場で2台のタクシーに分乗した。
美紀と俺を乗せたタク... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
5
俺達は伊藤忠の前のタクシー乗り場で2台のタクシーに分乗した。
美紀と俺を乗せたタクシーがやや混雑気味の青山通りを晴海方向に進みだす。
トシちゃんと小川Pを乗せたタクシーが前方に見える。
「ちょっと窓開けてもいいですか?」
そう言うと美紀はパワーウィンドウを少し下げて外を見た。冷たい春の夜風が車内に流れ込み彼女の髪がなびく。
「なんかタクシー乗ったら少しアツクなっちゃって」
美紀は車窓に流れる風景から俺のほうに顔を向けた。
「明日からゴールデンウィークですねぇ」
「だねー」
もう既にこの時間、車窓から見える赤坂の首都高立体交差は渋滞しだしている。
「私だけ明日からお休みいただいても本当にいいんですか?」
「うんうん、別に大丈夫でしょー撮影もないし」
「内田さんは企画3本、休み明けに提出あります」
「はーい、わかっております」
茶化して返事する俺を美紀が軽く睨む。
タクシーは晴海通りの混雑を抜け日比谷通りに入った。
新橋までもうすぐだ。
「ところで、内田さんはゴールデンウィークなにするんですかぁ?」
「うーん、だから企画を‥‥」
「だからぁ、仕事以外でぇ」
「仕事以外かー、うーん‥」
正直返事に詰まった。
誰かにこんな質問を受けるとは予想していなかったので模範解答を用意していなかったのだ。
普通、俺くらいの年になるとみんな結婚していて子供がいたりして、概してこういう連休にもう遊べる仲間がいなくなってる。
10代20代の頃にはわからなかった社会的孤立感を実感するようになってくる。
だからといって部屋であの亡霊くんと向き合うのもしんどい。
打ちっぱなし行くか、パチンコ行くか、24のDVDを最初から全部見直すか‥‥その程度のものしかない。
趣味のないオヤジの哀れな末路なんてこんなもんだ。
しかし俺の口から出た言葉はそのどれでもなかった。
「大掃除でもしようかなー」
はっきり言って俺の部屋は別段汚くもないがキレイでもない。
でもなんか無性に掃除したくなったんだ。
俺の部屋。総面積62平米の1LDK。
玄関から廊下が2メートルくらいL字にあって、15畳のキッチンダイニングと15畳のリビング。
それにトイレ、洗濯機置き場、風呂場がある。
部屋の角や廊下の隅で飼い猫の抜け毛やホコリが束になってるが、男なら気にしないものだ。
風呂場の水垢にキッチンまわりの油汚れ。これも男なら気にしない。
リビングに散乱する雑誌の束やちょっとハードな裸のロマンス物DVDもあるがソレも全く気にならない。男なら当然だ。
一人暮らしの男の部屋なんて大体こんなものだろうと自分では思っている。
だが、気にいらない事がある。
俺の元嫁は3年前の3月30日の朝、俺の作った朝飯を食って会社行ってそのまま二度と帰ってこなかったのだが、
そう、二度と帰ってこなかったのだが‥‥
別居1年、判を押して2年経った今でも未だに自分の荷物を全く引き取りに来ないのである。
まさに「ザッツ夜逃げ」のような離婚であった。
普通、引き取りにくるだろ?jk
という訳でウチのクローゼットやタンスには元嫁の衣装や下着が未だにあるわけで、
それらの破棄、もうこの際全部破棄破棄破棄破棄破棄破棄破棄破棄破棄破棄破棄破棄。
気分はJOJOって感じで今更ながらそれを思い立った訳だ。
3年も経っててまだ破棄してなかったのかって?
それは訊かないお約束だろ?アミーゴ
だって、忘れたふり、吹っ切れたふりをしていても俺の心の時間はあの日から正直止まったまんまなんだから‥‥
いつか戻ってくるかもしれないって淡い期待もあったし‥‥
戻ってきた時、服ないと困るじゃん!
裸にエプロンじゃ恥ずかしいし‥‥寒いし‥‥
「掃除ですかぁ、いいですね、掃除。私も掃除しようかなぁ」
妙に納得した顔で頷く美紀。
「内田さんは何でもやりっぱなしで後片付けしないからなぁ、そういうとこ直さないと‥」
「直さないと?‥‥」
聞き返す俺の目の中で美紀の目が笑っている。
その時タクシーが目的地に着いた。ドアが開く。
美紀は先にタクシーから降りると車内を覗きこんでまだ精算中の俺に向かってお茶目な笑顔でこう言った。
「彼女できませんよっ」
つづく
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ゴールデンウィーク何しますか??
]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第4話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=117 2008-04-24T13:03:21+09:00 2008-04-26T03:18:59Z 2008-04-24T04:03:21Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
4
約一時間後、午後8時半。
編集確認も終わり小川プロデューサーとも合流した俺達4人は挨... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
4
約一時間後、午後8時半。
編集確認も終わり小川プロデューサーとも合流した俺達4人は挨拶もそこそこにショーのある新橋に向かう事にした。
事務所を出て細い路地を青山通りに向かって歩く。
前方には美紀とトシちゃん。少し離れて俺と小川P。
路地の横には小さな野球場とテニスコートがあり、そこに集う人々の幸せそうな日常が見える。
端から見たら俺達もそう見えるんだろうな。
まー実際、俺の心はピーチ姫でワクテクなんだけど。
週末、金曜の夜。ゴールデンウィークの前日――――
いつもだったらこういう設定自体を忘れようとしている自分がいる。
仕事以外の予定もない。
横にいてくれる人もいない。
ただそこにあるのは垂れ流しの時間。糞みたいな時間。
目の前にある現実や未来から目を背け、本当の自分とかいいやがる心の中の亡霊と向き合う時間。
甘い囁きに耳をふさぐ時間。
「ねぇ、大人になったボク、ニコニコ笑ってる?」
奴はいつもそう言って現れる。
「ねぇ、本当にいま楽しいの?」
知るか、ボケっ。
そう毒づく俺の前に奴が姿を現す。
深い闇の中、向こうから幼い頃の自分がシャボン玉を吹いて近づいてくる。
シャボン玉の表面に浮かぶ虹色の輝きに楽しかった日々が浮かんでは消えていく。
知らぬ間に俺の周りを取り囲む無数のシャボン玉。
時を刻むのを止めていた鬱仕掛けの時計がグルグル音を立てて回り始める。
いつの間に、お前はまた俺の脳内に侵入してきたんだ?
俺は今から仲間と楽しいショーを見に行くんだぞ。
お願いだ。許してくれ。
今だけは許してくれ。
「ねぇ、なんでお嫁さんはいなくなったの?」
うるさい。
考えても考えてもまだわからないんだよ。
何が彼女を傷つけていたのか‥
俺の何がいけなかったのか‥
この3年、いくら考えてもまだわからないんだよ。
いや、違う。本当は思い当たることがいっぱいある。
でも、それが正しいのか。
俺にはわからないんだ。
二度と会えない彼女からはもう答えを聞けないんだ。
あーもう俺に構うな。話しかけるな。
お願いだから。
「ねぇ、なんで?」
たのむ、本当に。
「ねぇ?」
――――その時、シャボン玉が割れた。
花の散った桜の木の下で俺は思わず立ち止まっていた。
横で小川Pが心配そうな顔をして俺を覗き込んでいる。
「内田さん、大丈夫?もしかして具合わるい?」
「いやいや、ちょっと寝不足だったもんでー」
「さすが売れっ子演出家はちがうなあ。さあ、今日はテンション上げて飲みまくりましょう」
咄嗟に嘘をつく俺を元気付けるようにお世辞を言う小川P。
こういう気遣いってありがたいよね。
出世する男ってこういう所が違うような気がするな。
歯車でもモーターでもない。潤滑油的な存在。目立たないけど凄く人間関係で大事だよね。
「そうしますかー」
救われた俺の声にも少し元気が戻ってきた。
「で、ですね、今日はちょっと秘密兵器を持ってきてまして」
そう言うと小川Pはカバンの中をゴソゴソとあさり始めた。
テンションを上げる秘密兵器って‥‥
もしかして‥‥
気遣いは嬉しいけどソレはやばいっすよ、小川さん。
数年前、東南新社の演出家がソレで永久追放なったじゃないですか‥‥
「コレですよ」
小川Pはカバンから何かを取り出し俺に見せる。
暗闇に小さな小瓶のガラスが光る。
「なんなんです?ソレ」
ちょっと警戒した声で訊き返す俺を見て小川Pはニヤリと笑った。
「内田さんてホレ薬とか信じます?」
「ホレ薬?‥‥」
惚れ薬といえば‥‥
俺の頭の中では稲中がすぐに思い浮かんだ。
そう、あの天才北里君が作成した「やりたがり2000」。あの京子ちゃんでさえメロメロになった伝説のホレ薬だ。
HITOMIのLOVE2000なんかよりずっと愛がある。
まさか、小川さん。
あの「やりたがり2000」を遂に発明したというのですか!?
「そうそう。イタリア人のフェロモン配合とか昔からあるじゃないですか」
「うんうん」
「こいつはですね、内田さん」
ゴクリッ
「あの加藤鷹のフェロモン配合なのですよ。その名も『加藤鷹オリジナルフェロモン for Men』」
「ナ、ナンダッテ―――!!」
「クククク…クククク…」
小川Pから手渡される小瓶。
否が応でも再びテンションが上がっていく。
そして小瓶が発する後光の中、俺と小川Pは固く手を握り合ってお互いの輝く未来を祝福しあった。
これさえあれば、俺はピーチ姫を‥いや、地球を救うことが出来る。
黄金の指を武器にして‥‥
ありがとう。小川さん。
あんたって奴は、なんてすごいんだ。大きいんだ。まるで海みたいな男だ。
俺の闇に住むあのちっぽけな亡霊とは大違いだ。
「でも、俺がこれ貰ったら小川さんの分がないんじゃ?」
「大丈夫ですよ。まだ3本ありますから」
ニヤリと頷く小川P。さすが出世するプロデューサーは違います。
そんな俺達の紳士な会話を美紀の声が止める。
「内田さんに小川さぁーん。なにやってるんですかぁー」
前を向くと美紀とトシちゃんが20メートル先で後ろを振り向いて俺達を呼んでいる。
俺は小川Pと顔を見合わせるとその後を追う様に再び歩きだした。
その伝説の『加藤鷹オリジナルフェロモン for Men』を身体に吹きかけながら。
しかし俺はその時まだ、今夜これから起こる事を最初からノストラダムスが全て預言していた事に気付いていなかったんだ。
つづく
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(注※文中の『加藤鷹オリジナルフェロモン for Men』は実在する商品です。興味のある方はご自身で効能効果などを調べ、ご自身の判断で購入してください。)
]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第3話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=116 2008-04-22T20:49:25+09:00 2008-05-15T21:44:06Z 2008-04-22T11:49:25Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
3
美紀の一言に思わず固まる俺。
そんな俺を楽しそうな目をして美紀が見ている。
「大塚... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
3
美紀の一言に思わず固まる俺。
そんな俺を楽しそうな目をして美紀が見ている。
「大塚さん、いいですよねぇ?」
「いいね、いいね。美紀ちゃんも一緒だと俺も楽しいしね」
美紀の太ももに視線を移しながらトシちゃんものってくる。
「やったぁ」
「じゃ、ウッチーのとこに金出させるの悪いからスポンサー呼んじゃおっかな」
「スポンサーって誰です?トシちゃん」
慌てて俺も訊き返す。
だって俺、こう見えても極度の人見知りでして‥‥
どのくらい人見知りかと言うと、初めての相手だとどうしても勃たないくらい人見知りなのです‥‥
かつてそれで、ある女の子との交渉失敗した翌日に、
「内田さんインポなんですって?○○ちゃんから聞いたよっ」て、
女友達から言われ思わずペレになろうかと思った事もあります。
どうやら○○ちゃんは俺の不甲斐なさを女グループ内で宣伝してくれたみたいでして‥
そしてその○○ちゃんは俺と二度と会ってくれませんでした。
まーこれも今ではいい想い出です、はい。
「ファイブGの小川ちゃん。‥‥ウッチーも知ってるでしょ?」
「あー小川さん、いいっすね」
小川さんとは、銀座にある中堅プロダクション「ファイブG」のプロデューサーで年齢は俺より4個下くらいの独身イケメンだ。
去年一緒に海外長期ロケに行って俺もかなり気心の知れた仲になっている。
美紀とも顔見知りだ。
「今回の仕事もさ、軌道にのったらかんでもらおうと思ってるからさ」
「いいっすねー」
「今の内にまた交流深めておいてよ」
「りょうかいー」
そうしてトシちゃんは電話に、俺は編集作業に、美紀はお化粧直しとそれぞれの作業に迅速に取り掛かった。
残りの編集作業は10分で終わった。
なぜなら、こうなるともう俺のヤル気はキノコを食べたマリオみたいなもんだからだ。
そして、俺の頭の中では早くもまだ見ぬピーチ姫が踊り始める。
彼女は手の中のカスタネットを鳴らしながら、オリエンタルな目元で俺を手招きしてくる。
おっぱいも揺れている。ピーチなお尻も揺れている。
「ヘイ、マリオボーイ」
速まるリズム。
それに合わせて、腰のなめらかな回転運動も徐々に速さを増していく。
「カモーン」
見事な腰の平行移動。スライド運動。
ザクとは違うその動き、全国のマグロ男垂涎の動きがそこにはある。
あーっ、生きてて良かった‥‥
拝啓 全国のマグロ男の皆様
僕は胸を張って言えるよ。『僕は今日、横になったままでいい人と出逢います。』って。
俺は思わず手紙をしたためていた。
つづく
↑このバナーをクリックしていただけるとランキングが上がってやる気もアップします。出来ればご協力を。]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第2話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=115 2008-04-21T16:39:35+09:00 2008-05-15T21:43:10Z 2008-04-21T07:39:35Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
2
俺は居ても立ってもいられず、空のコーヒーカップをもってマックスペースを出た。
そん... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
2
俺は居ても立ってもいられず、空のコーヒーカップをもってマックスペースを出た。
そんな俺を見つけてトシちゃんが声をかけてくる。
「ウッチー、編集もう終わった?」
「あーもうちょっとですー」
俺は奥のコーヒーコーナーに向かいながら上の空で返事を返す。
「ちょっとってどんくらいかな?」
「うーん、あとコーピーテロップ入れて微修正するから‥」
「30分くらいかな?」
「そんくらいですかねー」
俺はコーヒーコーナーから戻るとソファーに並んで座っているトシちゃんと美紀の前でコーヒーをすする。
少し焦れてくる。
「じゃ、丁度いい時間かな」
トシちゃんがスーツの袖をめくって時計を確認した。
お!もしかして、もしかして?
いきなり今日会っちゃうって展開ですか?それははっきり言って予想外ですがテンション上がるってもんですよ。
でもこのワクテカ感を二人に察知されてはならない。
だって、編集さぼってパーテーション超しに盗み聞きしてたのばれたらやばいじゃないですか。
プロは仕事をきちんとこなしてこそ報酬いただけるのです。
「丁度いい時間って、トシちゃんどっか行くの?」
「実はさ、女友達のベリーダンサーが9時から新橋でショーやるみたいなんだけど一緒に行かないかなって」
ですよね、ですよね。そう来ないとですよね。
ショー見てはけた後、俺と彼女はone to oneのダンスをベリーする訳ですよね、わかります。
「いいですねー。俺、ベリーダンス生で見るの初めてですよ」
「でしょでしょ。普通あんま見ないからさ、ウッチーの刺激にもなるかなって」
「なにげに流行のきざしもありますしねー」
「うんうん、こういうロケハン大事よ」
この業界はこういう時、本当に便利です。
見るもの、感じるもの、遊ぶもの、全てが仕事に役立つロケハンになるのです。
あ、ロケハンてロケーション・ハンティングの略で、いわゆる下見のことです。
ですが、まーご時勢に漏れずこういう怪しいロケハンの領収書には税務署の目も最近厳しくなってきています。
確かに仕事の面は1割位なのですが‥‥
でも、でもですね。もしここに税務署の方がいらしたら是非聞いてください。
本当にこういうの大事なんです。
大昔ドラマのADをしていた頃、さる大御所の監督に教えられた事があります。
「これが高級クラブか?こんなんじゃ誰もリアリティー感じないぞ」
静まる現場で彼の怒声だけが響いていました。
「セットもダメ。女もダメ。女の話し方もダメ。お前らもっと遊び尽くせ。そして、そこにあるリアリティーを焼き付けろ」
そして彼は続けました。
「演出になりたければ遊びも仕事だ。忘れるな」ってね。
だから、赤紙だけはどうかご勘弁を‥‥
ふと気付くと美紀が俺とトシちゃんを交互に見ている。
そうだ。俺はすっかり忘れていた。
うちの事務所には税務署よりも怖い目が光ってることに‥
それにしても美紀先生。今日のシックなガーリッシュ系の衣装も素敵です。
光沢のあるグレーのフレアーミニと黒のロングブーツの隙間から見えるその生足、輝いてます。
そんな俺の視線を意識してか、足を組み替えながら美紀が訊いてくる。
「え?ベリーダンスって今流行ってるのですかぁ?」
「美紀ちゃん、知らないの?今、20代のOLやセレブ妻の間でブームになりかけよ」
トシちゃんもチラっと太ももに視線を動かす。
「ぇえ、知らなかったですぅ」
「ダイエット効果もあるらしいしねー」
俺もここぞとばかりに美紀にダメ押しをする。
「これは遊びじゃないんだ。仕事なんだよ」と。
しかし、これが俺の最大の誤算だった。
「へぇ、ダイエットにもいいんだぁ」とつぶやいた美紀が、次の瞬間俺に笑顔を向けてこう言ったんだ。
「じゃぁ、私も一緒に行きますっ」
つづく
↑このバナーをクリックしていただけるとランキングが上がってやる気もアップします。出来ればご協力を。
]]>『エピソード2:ベリーダンスな二択』第1話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=114 2008-04-20T11:45:40+09:00 2008-05-15T21:42:04Z 2008-04-20T02:45:40Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
1
車窓から流れる景色を見ると
僕の記憶は時々鍵のかかった過去を彷徨う
もう鍵は捨てた... バツイチ37 『episode2:ベリーダンスな二択』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード2:ベリーダンスな二択』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
1
車窓から流れる景色を見ると
僕の記憶は時々鍵のかかった過去を彷徨う
もう鍵は捨てたはずなのに
君は僕をどこまで受け入れてくれるの?
君の愛情は本物かい?
もっともっと もっともっと
求めるものだけ膨らんでいき
いつのまにか、君を見失っていた事に気付く
そんな過去の事象の螺旋の中
窓際に立つ僕の目に映る君はもういない
そして
後悔もすこしはしてるよって
シナトラが隣でささやくんだ
--------------------------------------------------------------------------------
やーアミーゴ。元気だったかい?
俺の名前は内田直樹。通称「バツイチ37」と呼ばれるしがないCMディレクターだ。
そして今朝も「ゴミの分別が甘い」と注意されて衆人監視のもと袋を開け分別し直す作業をさせられた、ちょっとチャーミングな37歳。
で、俺がいま何をしてるかというと‥
とある時計メーカーへの自主プレ用ビジュアルコンテ(Vコン)を事務所のマックで編集中なのである。
ここ数年、CM業界じゃ
「画コンテだけじゃ出来上がりの想像がつかなーい」
「映像がないと上を説得できないからイヤイヤー」
なんて小学生みたいに駄々をこねるクライアント向けに30秒程度の簡易的なイメージ映像を作るのが半ば当たり前になっている。
画コンテに合う映像をツタヤで借りてきた映画やドラマ、海外のCFやPVのサンプルから探し出して組み合わせて構成していく感じ。
それにナレーションや音楽つけて一応CMっぽくするって訳。
もちろんこのご時世、かつてデフレの波に飲み込まれた広告業界も予算削減されたままなので、いわゆるサービスってやつだ。
そのサービスの中でも自主プレは更にキング・オブ・サービス。
プレをお買い上げして貰えなければ一切の金銭的報酬のない過酷な作業だ。
まーそんな楽しい仕事を広告代理店パサツーのトシちゃんが持ってきてくれたのである。
でもここだけの話、これが日本の映像業界のパクリマンセー傾向を助長してるのもまた事実。
「え?プレの時と違うじゃない」ってお得意に言われるの怖いからね。
まーそんな話は置いておいて現状を説明すると、パーテーションの向こうでは編集中の俺を放置してトシちゃんと美紀がヒソヒソ話し込んでいる。
編集作業の時ってある程度完成するまで演出家以外ひまなんです。
途中で口だしされると作業効率落ちるからね。
だから二人みたくだべるか、雑誌や漫画読むか、寝ちゃうかって感じの人が多い。
そして俺もちょっと編集に飽きてきたので一服しながらその会話に聞き耳を立てたんだ。
どうやら俺のことを話しているらしい。
「ウッチーはさ、きっと結婚恐怖症ってやつなんだよ」
「へぇ、そんなのあるんですかぁ」
「うんうん、俺も再婚したかみさんと出逢うまではそうだったから良くわかるんだよね」
トシちゃんとの付き合いは長い。もう「ウッチー」「トシちゃん」の関係になってかれこれ10年。
そして、しがない演出稼業の俺にこうやって細かい仕事でも持ってきてくれる大事な兄貴分だ。離婚経験の先達でもある。
それにしても結婚恐怖症って俺も初耳だな。
新手の鬱みたいなもん?
「わかりやすく言うと中山美穂と結婚する前のエコーズ時代の辻仁成って感じかな」
甲高い声で話を続けるトシちゃん。さすが自称天才コピーライターだけあって実にわかりやすい。
「ふむふむ」
理解不能だけどとりあえず相槌うっとっけって感じの美紀の声も漏れてくる。
そんなのお構いなしに語るトシちゃん。
「僕のナイーブなこのハートはいつも孤独っ、みたいなね」
「ふむふむ」
「僕を理解してくれる人はもうこの世にはいない的なね」
「ふむふむ」
「そんな感じなのよ」
「自分を悲劇のヒロイン化しちゃうんですねっ」
「そそ。だからレースクイーンパブなんかに通ってるわけよ。昔の俺みたく」
「なるほどぉ」
なるほどぉって‥坂本くん、全然納得してない感じがモロバレなんですが‥‥
でも、このトシちゃんの分析。全くの的外れじゃないんだよね。
元嫁がいなくなって3年、心にぽっかり開いた穴からずっと大事な何かが流れ出しててさ。
すくってもすくってもソレはこぼれ落ちちゃって、自分という存在が心の中でしぼんでいくんだな。
だから俺はその大事な何かを取り戻すために夜な夜な美鈴ちゃんの「シャイナ」に通ってるわけで‥‥
「でさ、美紀ちゃん、ちょっとこれ見て」
「‥‥」
「どう?」
「どうって言われてもぉ‥」
二人の会話が止まり、事務所の中の有線だけが耳にはいってくる。
え?二人でなに見てるの?気になって作業が止まってしまうんですが‥
「彼女、友達でプロのベリーダンサーなんだけどさ」
「‥‥」
「もうすぐ30なんだけど、まだ独身なんだよね」
お!もしかしてトシちゃん!
「でさ、誰かいい人いないですか?ってこないだ訊かれたんだけど」
「‥‥」
「ウッチーの好みじゃないかな?」
その配慮、お見事です!
兄貴、
毎度毎度ありがとうございます!
お金が払えない仕事でもきっちり報酬を用意するあたりが憎いね、トシちゃん。
つうか、そんな隠し玉まだもってたの?
「うーん、内田さんの好みじゃないと思うけどなぁ‥」
即答する美紀。
ちょっとちょっと、坂本くん!そこで勝手に判断しない!
人様のご厚意はまずありがたく受け取るのが筋ってもんですよ。
「でも、彼女巨乳よ」
「ですねぇ‥確かにセクシーではありますねぇ」
えええ!?
セクシー巨乳ダンサーですか!?
トシちゃん、マジそれ見たいんですけど‥‥いますぐ‥
つうか、もうokでも‥‥
つづく
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]]>『エピソード1:レースクイーンに花束を』第9話 http://reppuumaga.jugem.jp/?eid=113 2008-04-19T08:56:33+09:00 2008-04-26T03:26:14Z 2008-04-18T23:56:33Z バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード1:レースクイーンに花束を』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
9
2時間後。
外に出ると雨はやんでいた。
俺と美紀はサバティーニを出ると青山通り... バツイチ37 『episode1:レースクイーンに花束を』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード1:レースクイーンに花束を』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
9
2時間後。
外に出ると雨はやんでいた。
俺と美紀はサバティーニを出ると青山通りを渋谷方面に並んで歩きはじめた。
土曜夜の繁華街ってなんかいいよね。
行きかう人の流れも車の列も一番リラックスしていて普段より少し華やいでるように見える。
「おいしかったですねぇ。さすがサバティーニ」
横で美紀が満足そうな顔で俺に同意を求める。
俺も軽くうなずいた。
その時、ポケットの中で携帯が震えた。
食事中も何回か鳴ってたけど、敢えて無視しちゃってたんだよね。
だって、楽しかったんだもん‥‥
ごめんね、美鈴ちゃん‥
俺はなにげなくポケットに手をつっこむとブルブル震えるマナーモードの携帯を握り締めた。
そんな俺の顔を覗き込む美紀。
「内田さん、どうかしましたぁ?」
「いやー、こうやって歩いてるとさ、俺たちもカップルに見えるのかなーって」
「そんなことないと思いますよ」
そんな即否定しなくても‥
「じゃぁわたしここでタクっちゃいます。ごちそうさまでしたぁ」
冷たい夜風になびく外苑前の桜の樹の下で美紀は右手を上げタクシーを止めた。
え?
ちょっと早くないですか?
アフター‥いや、カラオケくらい普通行かないかな?この展開だったら‥‥
そそくさと美紀がタクシーに乗り込む。
窓がゆっくり開く。
「明日11時に事務所で衣装メイク打ちなんで遅刻しないでくださいね」
しっかりもの気取った美紀が窓から顔を出す。
「はーい」
俺の返事ももうなげやりだ。
「だからぁ、夜遊びしないで帰ってくださいねっ」
「はーい」
「もぅっ、内田さんもいい年なんだから「はい」は伸ばさない方がいいと思いますよ」
「はーい」
呆れて笑う美紀。
「じゃぁ、おやすみなさーい」
顔もだけど性格もあっさりしてるのね、あなた‥
信号が赤から青に変わる。
美紀の笑顔の余韻を残して遠ざかるタクシーのテールランプが雑踏に消えいく。
ぼんやりとそれを見送る俺の頭の中で「アフターの虎」がはじまる。
吉田栄作が残念そうな顔で俺を見ている。
「ノーアフターでフィニッシュです。本当にありがとうござました。」
いやいや、こちらこそどうもありがとうございました。
いい夢みさせてもらいましたよ。もう一回ビジネスモデルを練り直してきます。
それにしても今日は疲れた。
色んな刺激がありすぎて俺の脳内細胞の活動がこれ以上ついてこれそうもない。
その時、手に握ったままだった携帯がまたブルった。
美紀かな?それとも美鈴ちゃんかな?
俺はじっとり汗ばんだ携帯を取り出すと着信履歴を確認した。
不在着信 8件
新着Eメール 1件
全て美鈴ちゃんからだ‥
こええー。間違いなく怒ってるよ、これ。
俺はおそるおそるメールを開く。
―――1時までにきてくれたらアフターいけるよ(ハート
燦然と闇夜に輝くハートマーク。
それを見た瞬間、俺はタクシーに風のように飛び乗るとピリオドの彼方へ走り出していたんだ。
その後どうなったかって?
そんな野暮なこときくなよ、アミーゴ。
『三十路の恋はプラトニック』
それが「バツイチ37」の掟なんだ。
ただ翌日、事務所のテーブルに置き忘れたあのでっかい花束を美紀がみつけて、サプライズしてたって事だけ教えておく。
あ、もちろん彼女が来る前にバースデイカードを添えておいたよ。
その点ご心配なく。
じゃ、また会う日まで。アディオス!
【エピソード1:レースクイーンに花束を 完】
勝手にエンディングテーマ曲 ウルフルズ-笑えれば
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『エピソード1:レースクイーンに花束を』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
8
「大丈夫!予約はもう入ってますっ」
美紀は元気にこう言うと俺の右手をとって俺の... バツイチ37 『episode1:レースクイーンに花束を』 バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード1:レースクイーンに花束を』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
8
「大丈夫!予約はもう入ってますっ」
美紀は元気にこう言うと俺の右手をとって俺のシーマスターを覗きこんだ。
「もう9時半過ぎちゃってますよ、内田さん。急がないとキャンセルフィー払わなきゃですよぉ」
俺の袖を引っ張って美紀が言う。
ええ?なんか俺がそれ払わなといけないみたいなニュアンスじゃないですか‥
つうか、俺‥勝ってたはずじゃなかった?
気分的にはすでにテンパイ煙草吹かしてたよね?
あれ?あれれ?
じっと見つめてくる美紀。目がキラキラ輝いている。
お前はご飯を前にしてお座りしてる飼い犬か?
君に一つ教えておこう。
人と獣の大きな違いは自己の欲求の制御の有無だという。いわゆる自制心て奴だ。
仏教だと一日一食が仏さま。人間は一日二食。ケダモノは一日三食だという。
「わぁ、こんなとこにチョコ発見っ」
って言いながら間食もしていたお前は人間なのか?ケダモノなのか?それとも最早ケダモノ以下なのか?
「ケダモノよっ」
心の中のシータが叫ぶ。
「ちなみにそのキャンセルフィーっておいくらなんでしょ?」
「二人で3万円ですぅ」
心なしか美紀の声が弾んで聞こえる。
「だって誕生日だもんっ」
3万て‥‥それ俺が今夜「シャイナ」で使用予定の予算じゃないですか。
いうなればソレは美鈴ちゃんの谷間の向こうに広がる世界に飛ぶための大事な飛行石。
おまえの狙いはそれだったか、ムスカ‥‥
心の中で徐々に遠ざかっていく美鈴ちゃんが両手を広げて俺に助けを求める。
「パズぅぅううううううううううううう」
「シータぁぁああああああああああああ」
しかし、確かに美紀に払ってる給料からこの金額を出させるのは忍びない。
しがない演出事務所の薄給に文句も言わずこうやって休日出勤してくれてるし‥
ぐーたらな俺の仕事の世話をしてくれて内心はずっと大変感謝してる。
この際しょうがない‥
父さん‥天空の城に行くには僕の飛行船はまだ力不足だったみたいだよ。
観念した俺は心の中で引き裂かれるシータとパズーの苦しみを味わいながらムスカに言ったんだ。
「じゃー、イタ飯行っちゃいますか?」
「はいっ」
とほほ‥‥
オンボロ雑居ビルを出るとまだ小雨が降っている。
美紀が立ち止まり傘を開くのを俺は横で待った。
「内田さん、傘は?」
「あー降ると思ってなかったからね。まーこんくらいの雨なら平気でしょ」
「しょうがないなっ。わたしの傘に一緒にはいりましょっ」
そう言うと美紀は俺に自分の傘を渡してきた。
俺は傘を受け取ると美紀の方にかざす。
雨にぬれないように身体を寄せてくる美紀。
その微妙な感触と香水の匂いが俺の五感に攻め込んでくる。
この感じ、ちょっとやばいです‥‥
正直予想以上です。
男ヤモメ歴3年の俺にはちょっとリアルなこの感じがやばいです。
ムスカだと思ってたのに、いきなりシータに早変わりしたようです。
あーっ
思わず無言でこの感覚をあじわいたくなる。
でも無言ではなんか気まずい。
だって職場の関係じゃん。
もう二度と手近な女には手を出さないって決めたじゃん。
とりあえず‥
とりあえず何か話さないと‥
なに話せばいい?俺
「ところで、今日誰と行く予定だったの?」
「気になりますぅ?」
「いやいや、そういう訳じゃなくてさー」
「内田さんこそ女の子の店行かなくていいんですか?」
美紀がいたずらな目つきで俺を見上げる。
やばい。また年甲斐もなくドキドキしちゃいました、俺。
愛深き故に愛を捨てたこの俺が‥‥
またの名をバツイチ・キョニュー・スキ・ウチダの俺が‥‥
こうして見事な「言の葉返し」で完全に主導権を握られた俺は、いつの間にか美紀の大きな瞳に吸い込まれていた。
都市伝説だと信じていたアイアイ傘の中で。
つづく
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