2008.05.21 Wednesday
『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』第2話
バツイチ37(batsu-ichi thirty-seven)
『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
2
サザエさん通りから駅前に出るとガードレールに美紀がちょこんと腰かけていた。
夕方の駅前。
車の流れや人の雑踏の中、一人空を見上げる美紀。
斜光を浴びて首から顎にかけてのラインが美しく浮かび上がる。
女の子って、こういう時何を考えてるのだろう。
何も考えてないと今まで思ってたけど、そうでもないらしい。
こないだ、NHKの『考える』って番組見た。
うちらの業界の超売れっ子でてたからね、箭内さん。
その中で、渋谷の公衆電話の前にぼけっと立ってた女の子が
「自分の将来に必要なものは何なのかな」って
その時考えていた事を話してるのを聞いて以来、俺は人とすれ違う度にこの事を考えてる。
いつもなら嫉妬からくる反発で素直にこういうの見れないんだけど、なぜか素直に見れたんだよね。
素直に見て、彼の凄いところをまざまざと見せ付けられた。
金にならないNHKだから箭内さんもある意味適当に「考える」って広告つくってたけど
最後に箭内さんが言った言葉。
「僕にとって考えることは、人に会うこと」
つきささったね、胸に。
考える 考える 自分のこと 来月のこと 君のこと〜♪
俺はゆっくりとした足取りで美紀に近づくと、その横に腰掛け空を見上げた。
吹き抜ける春のそよ風が美紀の香りを運ぶ。
そんな俺を美紀が振り返り、少し距離を置くように座り直す。
「内田さん、なんなんですか!?その恋人チックな登場はぁ」
「え?」
「ちょっと鳥肌たちましたよぉ、もぅ」
ちょっと、ちょっと。
センチメンタルジャーニーなバツイチ37歳に、いきなりそれはひどすぎますよ。特に今日は‥
「い、いやー、空を見上げてたからさ、なんか話しかけづらくてさー」
「ぇえ?」
「何か考えてるのかなーって」
視線の動き、方向で感情を表現する。
詳細は伊丹十三の父である映画監督、伊丹万作がその著書の演出論で熱く語っています。
だから、夕暮れに空を見上げる人は思い悩んでるものなのです。
君の心に今雨を降らせている雲の上にも,青空が広がっているものさ。
うんうん、僕にはわかるよ。
空を見上げる君の気持ちが‥‥
「空なんて私見てないですよ、私が見てたのはアレですよ」
美紀は不機嫌な口調で言うと投げやりに上を指をさした。
「アレ?」
「アレですよぉ」
「どれー?」
「もぅ、あそこの2階の窓際っ」
俺の視線は美紀の指の導線を追い、一組のカップルを捕らえた。
そこにはよくお似合いの美男美女。年のころは20代半ばくらいかな?
二人で仲睦まじく何かのパンフレットを覗き込んでいる。
結婚か旅行かわからないけど、とても楽しそうだ。
「あぁ、もう最悪ぅ」
「え?お似合いじゃない?あのカップル」
「そういう問題じゃなくて最悪なんですよ」
俺は上を睨みつけている美紀を見た。
「あの男の方―――」
一瞬動きが止まる美紀の唇。生まれる間。
もしかして、あの男の子は彼氏?それとも元彼?
「親友の彼氏なんですけど―――」
「ほー」
「アレ、どう見ても浮気ですよねぇ」
ですねー。そう言われるとそうですね。
でも浮気か本気かは彼しかわからないですが。
もしかしたら妹かもしれないし‥
「どうしよう、内田さん」
「え?」
「知らせた方がいいかな?黙ってた方がいいかな?」
「うーん、難しいなー」
俺と美紀は二人してそのカップルを見上げながら答えの出ない問題を考えたんだ。
「僕にとって考えることは、人に会うこと」
気が付くと、山の手の夕暮れに風とロックが流れていた。
つづく
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『エピソード3:わがままな涙とアップルパイ』
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。
2
サザエさん通りから駅前に出るとガードレールに美紀がちょこんと腰かけていた。
夕方の駅前。
車の流れや人の雑踏の中、一人空を見上げる美紀。
斜光を浴びて首から顎にかけてのラインが美しく浮かび上がる。
女の子って、こういう時何を考えてるのだろう。
何も考えてないと今まで思ってたけど、そうでもないらしい。
こないだ、NHKの『考える』って番組見た。
うちらの業界の超売れっ子でてたからね、箭内さん。
その中で、渋谷の公衆電話の前にぼけっと立ってた女の子が
「自分の将来に必要なものは何なのかな」って
その時考えていた事を話してるのを聞いて以来、俺は人とすれ違う度にこの事を考えてる。
いつもなら嫉妬からくる反発で素直にこういうの見れないんだけど、なぜか素直に見れたんだよね。
素直に見て、彼の凄いところをまざまざと見せ付けられた。
金にならないNHKだから箭内さんもある意味適当に「考える」って広告つくってたけど
最後に箭内さんが言った言葉。
「僕にとって考えることは、人に会うこと」
つきささったね、胸に。
考える 考える 自分のこと 来月のこと 君のこと〜♪
俺はゆっくりとした足取りで美紀に近づくと、その横に腰掛け空を見上げた。
吹き抜ける春のそよ風が美紀の香りを運ぶ。
そんな俺を美紀が振り返り、少し距離を置くように座り直す。
「内田さん、なんなんですか!?その恋人チックな登場はぁ」
「え?」
「ちょっと鳥肌たちましたよぉ、もぅ」
ちょっと、ちょっと。
センチメンタルジャーニーなバツイチ37歳に、いきなりそれはひどすぎますよ。特に今日は‥
「い、いやー、空を見上げてたからさ、なんか話しかけづらくてさー」
「ぇえ?」
「何か考えてるのかなーって」
視線の動き、方向で感情を表現する。
詳細は伊丹十三の父である映画監督、伊丹万作がその著書の演出論で熱く語っています。
だから、夕暮れに空を見上げる人は思い悩んでるものなのです。
君の心に今雨を降らせている雲の上にも,青空が広がっているものさ。
うんうん、僕にはわかるよ。
空を見上げる君の気持ちが‥‥
「空なんて私見てないですよ、私が見てたのはアレですよ」
美紀は不機嫌な口調で言うと投げやりに上を指をさした。
「アレ?」
「アレですよぉ」
「どれー?」
「もぅ、あそこの2階の窓際っ」
俺の視線は美紀の指の導線を追い、一組のカップルを捕らえた。
そこにはよくお似合いの美男美女。年のころは20代半ばくらいかな?
二人で仲睦まじく何かのパンフレットを覗き込んでいる。
結婚か旅行かわからないけど、とても楽しそうだ。
「あぁ、もう最悪ぅ」
「え?お似合いじゃない?あのカップル」
「そういう問題じゃなくて最悪なんですよ」
俺は上を睨みつけている美紀を見た。
「あの男の方―――」
一瞬動きが止まる美紀の唇。生まれる間。
もしかして、あの男の子は彼氏?それとも元彼?
「親友の彼氏なんですけど―――」
「ほー」
「アレ、どう見ても浮気ですよねぇ」
ですねー。そう言われるとそうですね。
でも浮気か本気かは彼しかわからないですが。
もしかしたら妹かもしれないし‥
「どうしよう、内田さん」
「え?」
「知らせた方がいいかな?黙ってた方がいいかな?」
「うーん、難しいなー」
俺と美紀は二人してそのカップルを見上げながら答えの出ない問題を考えたんだ。
「僕にとって考えることは、人に会うこと」
気が付くと、山の手の夕暮れに風とロックが流れていた。
つづく
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JUGEMテーマ:恋愛小説
- Comment
-
- 悲しくも愛しい男の”さが”。
純粋に伝わって来ました〜。
一方通行な進行が大切な人への思い
を掻き立てるようで切ない〜。
心の隙間を埋めようとする主人公。
埋まらないの解ってるのに。
いくら整理しても片付かない心の
部屋。片付けるのがつらいよね〜。
書き手の思いが伝わってきます。
触る時は優しくね〜。
- 2009/02/27 12:04 AM, from temari
- 悲しくも愛しい男の”さが”。
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